「リアム様を頼みます」
 私にだけ聞こえる声でジャックが囁くので、私は「うん。約束する」と返事した。尊敬する人と離れ離れにさせてごめんなさい。ジャックの分まで彼を支えます。ジャックと離れると、次は細く柔らかい身体がふわりと私を抱きしめた。

「リナ様」
「シルフィン」
 あぁもうダメだ。シルフィンと別れると思ったら寂しくてたまらない。
「リアム様と幸せになって下さい。リナ様の事は忘れません」
「ありがとう。シルフィンも元気でね」
 ギュッとハグして私と離れてから、シルフィンはリアムの前に立ち深々と丁寧にお辞儀をした。リアムは「お前はすぐ無理をしてアレックスの盾になるから、自分を大切にしなさい」と静かに言って肩に手をかけた。シルフィンもリアムを尊敬していて大好きだった。シルフィンの分もリアムを大切にするからね。

 そして

「ありがとうリナ」
 アレックスが私の腕を取り自分の胸に引き入れた。
 広い胸元で膝が崩れるような甘いキスをされた事を想い出す。
「リアムは真面目で意地っ張りでつまらない男だけれど」
 リアムにわざと聞こえるように言いながら、アレックスは力を緩めず私を抱きしめる。品のある顔はどこか寂しげで、ジッと見てると切なくなる。
「リナを世界で一番幸せにする男だ」
「アレックス」
「リナを……妃にしたかった」
 私にだけ聞こえる声でそう囁き、そっと頬にキスして私を離す。
「私は忘れたくない。大切な人達を忘れたくないの、お願いだから私とリアムの記憶を消さないで」
 必死で訴える私に答えず、彼らは並んで笑顔を見せた。寂しさで崩れる身体をリアムが支えていた。
「さよなら……リナ」
 アレックスが一言残すと

 あっという間に

 みんなの姿が徐々に薄くなって

 私が声を出す暇もなく


 目の前から


 みんな消えてしまった。