「失うって?」
「二度とこっちの世界に戻れないかもしれない。数十年経って戻っても、またトリップした場面からの再スタートかもしれないし……失敗して命をそのまま落とすかもしれない。それは誰にもわからない確証のない世界なんだ」

 つまり、向こうの世界に行ったなら、もう二度と戻れなくなって、家族や友達に会えなくなるかもしれないって話なんだ。そして下手すると死ぬこともある。簡単に考えていたけれど、あらためて言われたら怖いかもしれない。そんなケースがないなら、未知の世界なんだろう。
「だからアレックスに頼んだ。『リナを連れて戻るのはやめる。俺がリナの世界でリナと生きる』って」簡単に言うリアムの言葉に私は驚いて抗議する。
「リアム、それはダメだよ。あなたは向こうの世界の英雄だよ。みんなあなたに憧れて騎士団に入るのに、アレックスだってリアムがいないと寂しいでしょう。こっちの世界とあっちの世界は簡単に行ったり来たりできるの?」
「リナのいない世界は意味がない」
 私の目を見て、ためらいもなくリアムはそう言った。
「家族を失うのは苦しいものだから」
「でも……」
 リアムは子供の頃に両親を失っている。だから私に同じ思いはさせたくないのだろう。彼の気持ちを考えると黙ってしまう私。
「アレックスの魔法でこの世界に作り出してもらった。時間を戻して、リナと接触しやすいようにリナの会社の社長の所に誕生して早送りで生活した。戸籍も経歴も大丈夫。幽霊じゃなくて高橋勇翔は実在する」
「とんでもない所に生まれてきたね」
 発想が本当にすごい。そのキラキラ御曹司設定は間違いなくアレックスだと思ってたのに。
「父も母も弟もできた……大切な存在だ」
 どことなく嬉しそうな声だった。こんな流れだけれど、大切な家族ができたんだね。
 
 いやでも……早送りって!アレックスすごいわ!