テーブルの上にある書類を見つけ、突っ張るぐらいに手を伸ばしてつかんでから、リアムの頭をパンと叩く。
「痛っ」っと言ってから、いつもの不機嫌そうな顔。リアムのいつもの顔を思い出して笑ってしまう私。
「そっちこそ落ち着いて」
ふたりで顔を見合わせると、リアムも笑う。時間が後戻りする。月を眺めながらペガサスの背でワインを飲んだ日が蘇る。もう二度と会えない、自分の妄想だったかもしれないと思った愛する人が、目の前に居る。
「悪かった」
 紳士らしく私の手を取り、ソファに座らせてからリアムは腕時計を見る。
「もう退社時間だ。5時になったらとりあえずここから出て俺の部屋に移動しよう」
「部屋があるの?」
「城より狭いが」
「魔法で移動する?」
「魔法の車で移動する」彼は立ち上がり自分のデスクから車のキーを私に見せてくれた。きっと高級車だろうな。車の運転もできるのね。
「もう魔法は使えない。普通のリナと同じ種類の人間だ」
 自虐的に笑うリアムを見て、私はハッとしてしまう。
「私のせい?」
 マントをひるがえしペガサスに乗り、エリート騎士団のトップとして輝いていた騎士団長。誰もが憧れ尊敬していた彼が魔法を使えないなんて。
「気にするな、俺が希望した。リナの為なら何でもできる」不安そうな私の頬にキスをして「ゆっくり話をしよう」と言ってくれた。長い夜になりそうです。

 デスクに戻ると課長が危険物を見つめる目で私を見ていた。ごめんなさい。すいません。あなたの部下は副社長とデキてます。色々と追及される前に逃げてもいいですか?いや秒で逃げます。残っている仕事はないのでデスクを片付け、退社時間ピッタリに席を立ちリアムの元へ行こうとすると、逆に彼がやってきた。
「迎えに来た」
 総務にやって来た御曹司。噂のイケメン御曹司は目立つ目立つ。驚く社員を背中にしながら、私はリアムの腕を引っ張って会社から逃げた。リアル逃げるが勝ちってことです。
「目立つんだって!」
「何が悪い?」いつでもどこでも堂々とする姿。さすが騎士団長様。
 重役専用駐車場スーペースにあったのは、白のセダンの高級車だった。助手席のドアを開けてもらい乗り込もうと思った時「もう帰るのかい?」と、優しい声がかけられた。振り返ると社長と常務がそこに立っている。
「しゃ……社長」
 一般事務員からすれば雲の上の存在。背筋を伸ばしてしまう。そして自分の失礼行動を思い出す。リアムの副社長デビューを廊下でそそくさと終わらせてしまったのは私の責任です。