抱きしめようとするリアムから一歩下がり、私は彼の姿を見つめた。
 端整な顔はそのままだけれど、ヘーゼルの瞳は漆黒に変わり、背中まであった長い髪は短めのツーブロックになって清潔感に溢れてる。ウエストを絞ったチャコールグレーのスーツはたぶんイタリア製で淡いブルーのシャツと合わせた赤系のネクタイが似合っている。手首から覗くシルバーの腕時計も高そうでまさしく仕事のできる御曹司って感じ。
「肩幅あるからスーツ似合うね」
 なぜか急に恥ずかしくなりうつむくと、アゴをグイッと上げられた。
「やっと見つけた」リアムの切ない声と共に唇が重なる。懐かしいくらい甘いキス。
「聞きたい事が沢山あるんだろう?」
「一晩中ある」
「抱く時間も必要だ」
「いや……それは……」真面目に語るリアムはやっぱりリアム。恥ずかしくて顔が赤くなってしまう私。

「本当はアレックスから話をさせたいのだが」
 私を離したくないのか、キスをしながらリアムはそう言った。
 アレックス!その名前を聞いてスイッチが入る私。キラキラ御曹司副社長は絶対アレックスだと思っていたのにリアムだったとすると、アレックスはどこにいるの?
「アレックスはどこにいるの?あれから国はどうなったの?魔王はもう来なかった?フレンドは?国のみんなは?いつここに来たの?騎士団がバイク便って?シルフィンが地下アイド……」
 唇をふさがれてしまった。
「落ち着こう。何か飲む?」
 くしゃっと私の頭を撫でてから部屋のカウンターに移動しようとするので、私は彼のスーツの裾をギュッと握る。
「リナ?」
「もう離れたくない」
 必死な声を出す私。もう二度と離れたくないもの。
「リナが拒否しても、俺はリナの傍にいる。リナの為なら何でもできる」
「リアム」
 身体がふわっと浮き上がり。幅の広いソファーに身体が沈む。
「そんな顔するな」
 瞳の色は変わっても、人を惹き付ける魅力的なまなざしは変わらない。
「こっちはずっと抱きたくてたまらないのだから」
 横たわった体勢で首筋にキスをする。いやこれは……ダメでしょう。
「こっ……ここじゃダメ」
「誘ったリナが悪い」
「誘ってない」
「『抱いて欲しい』って俺を見てた」
「ちょっと落ち着いて」
 ブラウスのボタンが外されて、スカートの下から彼の手が入る。

 ダメダメダメ!会社ではダメ!
 本当はこのまま流されたいけど、それはダメ!私の理性よ全面的に出ておいで!!しっかりこちらの世界に馴染んていると思ったら、こーゆー秩序が欠けてるとこがまだ異世界の名残だろう。