何をやってるシルフィン!
 いや、わかるよシルフィンは可愛い!最初から可愛いと思っていた。細くて色白で小顔で目が丸くて大きくて、唇もプルンとしていてそこらのアイドルより可愛いって思ってたのに
 なんで地下アイドル?これってアレックスの力でこっちに来たんでしょ?それなら地下より地上波でしょう!坂道グループとかに、ドーンとねじ込みなさいよ……じゃなくて。
 そうじゃなくて……そうじゃないんだよ。あぁ混乱が止まらない。自分で何をどうしていいのかわからない。とりあえず私はバイク便のサイトのお問い合わせメールに、トイレの個室からメッセージを打ち込む。
『ジャック!あなたは「信じて待て」とか言ってたけど、この状態で待つのは無理!一刻も早く説明して下さい!そしてリアムはどこ?アレックスは?国はあれからどうなったの?返事下さい   リナ』

 一気に打ち込んでトイレを出たら身体がふらついた。この10分の間で魂抜かれた気分。
 壁をつたいながら歩いていたら、広報部の同期に声をかけられた。
「どうしたの里奈?お腹痛いの?」
「お腹から頭から足から腰から全部痛い」
 説明できないくらいの疲労感。
 そんな言葉を冗談と受け止めて「かわいそうに。じゃぁ元気が出る事をひとつ教えてあげる。内緒だよ」って私の肩を抱いてこっそり話をしてくれた。
「金曜日、副社長が来る」彼女はそう言って「イケメン御曹司だよ。高貴なご身分で庶民の私達には関係ないけど、目の保養になって女子社員の気分も上がるよー」と、私の背中を叩いてきた。

 アレックスの笑顔が頭に広がる。ここで大御所登場か!
 同期はペラペラと副社長の経歴を教えてくれた。それはそれは素晴らしい経歴で、顔よく賢くイケメンで会長のお気に入り。やっと会長が手放して京都支社からこちらの本社に移動。仕事もバリバリなのでこれから未来は明るい我が社……だ、そうだ。
「今回は社史の件で来るんだ。あ、総務の課長にも知らせなきゃ、先に行くね」
「う……うん」軽やかに同期は行ってしまった。

 副社長ポストなんてなかった。私が異世界に飛ばされる前はなかった。社長は息子さんがいたとは思ったけど、まだ大学生なので、そんな経歴はないはずで……。

 流れが変わってる。
 そして絶対、そのキラキラ経歴副社長はアレックスだ!
 ジャック、シルフィン、アレックス

 リアムは?

 リアムはどこにいるの?