現実逃避の夢なのか?
 夢のわりにリアルすぎるぐらいリアルで、ラストの魔王との闘いなんて、二度と思い出したくないくらいハードで痛かった。ワイン美味しかったし空も飛んだし、愛する人に抱かれたし素肌と素肌が重なった感触も覚えてる。
 でも絶対ありえないよね。皆の思ってる事が正しいのかな、振られたショックがあまりにも大きくて、頭の中の現実逃避の妄想が膨らんで、もう一つの世界を自分で作ってただけなのかもしれない。それしかないよね。
 だってありえないもん。
 ありえないんだから
 ポロポロと涙が流れたので、指で払おうとすると右手の中指が重い。見ると、銀の指輪が私の右手の中指にはまっていた。これってリアムの指輪?
 課長が去ったのを確認しながら、ベッドから飛び起きて震える手で指輪を確認すると、私が着けるにはちょっと幅が大きい銀の指輪は白百合の紋章が刻まれていた。やっぱりこれはリアムの指輪。彼のお母さんの形見で、私を抱いた後に自分の指から外して私にはめてくれた。
 重い銀の指輪を握りしめて、私は頭を混乱させていた。


 それから
 こちらの季節も秋になる。今年は1年を15ヶ月で過ごしてる気分。こんな話は誰に話しても信じてもらえないだろう。危ないヤツって思われて終わりだ。自分自身も混乱して考えすぎると頭が溶けてきそうだから、とりあえず落ちつけと自分に暗示をかけてきた。
 一週間ほどかかったけれど、なんとか自分をコントロールして仕事も前のように行い、私は普通です元気ですアピールもしながら、色々と裏で整理しようと考える。

A案 私は本当に異世界に飛ばされていた。
 理由は記憶がしっかりしていて、リアムの銀の指輪も持っている。

B案 全て私の妄想である。
 だって絶対ありえない。銀の指輪は自分で買ったものである。
 振られたショックでそんな妄想を浮かばせていた。
 最初は絶対A案だと思っていたけど、時間の経過と共にB案じゃないかと気持ちは移行する。