あの日
『大丈夫ですか?宮本さん』エレベーター前でコケた私に驚いて、佐藤君は手を貸してくれた。
『こっ……ここは?』
『ここは?って……普通に会社の廊下です。そこのエレベーター故障してますから使えませんよ』
『会社?会社って、えっ?今日って何日?もう秋だよね。秋の収穫祭りだよね!』
『そういえば昨日、梅雨明け宣言が出ましたね。秋のパン祭り?シール集めてます?でも、夏はこれからですよ』
佐藤君は引き気味に言って、逃げるように行ってしまった。
えっ?
ちょっと、ちょっと待ってよ
何これ?戻った?戻ったの私?
自分の服装をまじまじと見てしまう。味もそっけもない総務の事務服だ。そしてここは見慣れた私の会社で、握っているのは私の長財布でポケットに入っているのは私のスマホ。
戻ったの?このタイミングで?
いやこれから幸せになるのに?超ド派手な挙式をする予定なのに?やっつけたら私は用無しってヤツ?
『いやだーーー!!』座り込んで大きな声を上げてたら、知らないうちに医務室に運ばれていた。医務室のベッドで泣いてたら、課長が慌ててやって来た。
『宮本さん。最近は無理して身体と心が疲れてたかもしれない。ゆっくり休みをとっていいからね。宮本さんが頼りになるから皆で頼って、忙しい思いをさせてしまったね。午後からの会議も出なくていいよ。休んでから帰りなさい』と、学校の先生のような事を言ってくれた。
でもきっと課長の本音は『婚約者に捨てられたショックだろう』でしょうね。
違うんだよ。婚約者じゃなくて、異世界に捨てられてしまったのよ。私は飛ばされて……うん…飛ばされたん……だよね。
医務室の天井を見ながら、もう一度冷静になって考える。
異世界に飛ばされる
ないよね
ないわー。いやありえないでしょう。
大人になれよ。