「俺を信じろ……と、言いたいが、それもこの状況では言えない。ただ、俺はリナを信じている。迷わず殺せ」
 騎士団長の命令を受けて私はしっかりうなずき、私は席を立ち、左のリアムの元へ歩く。アレックスたちが心配そうに私を見ていた。右のリアムは……リアムだった。さて、左のリアムはどうだろう。

 左のリアムは反対側の窓際に立ち、腕を組んで外を見ていた。
「フレンドが悲しそうだ」寂しそうに私に言うので私も窓の外を見る。
 フレンドがグルグルと一匹で空を飛んでいた。ドームの様子も心配だけど、きっと優秀な騎士団も付いているし、魔王と私の闘いが終わらないかぎり魔王も国民には手を出さないと信じよう。
 ごめんねフレンド。唇を噛んで外を見ていたら左のリアムに肩を抱かれた。力強くてあったかい。
「泣きたい気分だろう?」ズバリ言われて左のリアムの顔を見上げると、彼は優しく微笑んだ。
「リアムも泣きたい?」
 ふざけた感じでそう聞くと、あっという間に笑顔がムッとした顔に変化した。そのムッとした顔、これこそリアムの顔。
「泣きたくないけど……困ってるな」
「うん」
「リナに重い決断をさせてしまう。リナの苦しみが手に取るようにわかるから……困ってる」
「リアム」優しいリアム。
「リナを信じている。リナの思った通り魔王を倒せ」
「あっちのリアムも『私を信じてる』って言ってた」
「俺の全てを把握してるから、俺の言いそうな事もわかってるんだろう」鼻で笑ってリアムは私にそう言い、話を続ける。
「だからリナも間違うかもしれない。でもそれでもいい。お前に責任はない。お前はよくやった。だから、最後はお前の思う方を選べ」
「間違ってもいいの?私が間違ったら、この国は滅亡するよ」
 声を震わせてそう言うと、左のリアムは私を抱く手に力を入れた。
「間違ってもいい。俺はお前に殺されてもいい。時間切れになる前に魔王を殺せ」こんな状況なのにリアムの声は清々しい。
「はい」私の返事に左のリアムは納得したように、手の力を緩めてくれた。
 ずっとそのまま、彼の腕の中に居たかった。
 
 私は振り返らずにアレックスの元に戻って黙り込む。
「どうだった?」砂時計を気にしながら、アレックスたちは無表情の私を熱く囲む。
「姿も声も表情も、ふたりとも完璧なリアムだった」
 私の報告に三人の意気が下がる。
「言いそうな事も同じ。一緒に居る雰囲気も同じ。私を信じているのも同じ……でも……」
「でも?」
「わかりましたか?」
「どっちがリアム様です?」
 部屋中に三人のハイテンションな声が響き、砂時計の砂は残り少ない。