「リナ様なら、わかりますか?」
 遠慮がちに、でも期待を込めてシルフィンが私に聞く。
 みんなの目が私に集中する。二人のリアムの切なそうな表情が見ていて苦しい。境界線の砂時計はサラサラと無情に落ちてゆく。
「リアムとふたりで話をしたい」私はそう言ってためらわず境界線を越えた。アレックスが私の手を引っ張ったけど、私は丁寧にその手を払いリアム達の前に立ち考える。
 さてどうしよう。時間も少ない。
「ひとりずつ話をしたい」
 私がそう言うと右のリアムは「それは危険だ」とすかさず言い、左のリアムは「リナが言うならそうしよう」と言ってくれた。
 どうやら完璧なシンクロではないらしい。両方リアムが言いそうだけど、少しズレがありそうだ。魔王は自意識過剰で自分にミスはないと思っているけど、絶対必ずどこかでミスをする……と、信じるしかない。リアムと出会って愛しあってからまだ時間が短い、彼の事を全てわかっているわけではない。でも私も自分を信じなければ、どうにもならない。全てが壊れてしまう。

 流れる砂時計を気にしながら、私は剣を持ち、まずは右のリアムと目を合わせ、一緒に部屋の隅に移動して壁を背にして座り込んだ。『ひとりずつお話をさせて下さい』ってテレビでやってるお見合い番組みたいで、ちょっと笑ってしまう。私が少し笑顔になったのでリアムは不思議そうな顔をした。
「ケガしなかった?」私がそう聞くと右のリアムは「リナこそ大丈夫か?」って自分より私の心配をして、ジッと目を見る。吸い込まれそうなくらい綺麗な瞳と端整な顔立ち。背中でひとつにまとめた長い髪をそっと触る私。
「リナを強く抱きしめたい」
「私も同じ気持ちだよ」髪を触るぐらいでストップしないと、アレックスに怒られちゃう。
「まさかこんな事になるとは」その苦しそうな表情はまさしくリアムなんだけど……。
「アレックスもジャックもシルフィンも、どっちが本物のリアムかわからない」
「俺も自分でわからなくなりそうだ」
 ふっと笑った顔が懐かしい。この表情が私は大好きだったから、泣きたくなるよ。
「リナはわかるのか?」
「正直わからない」
「正直すぎる」
「ごめん」
 焦らなきゃいけないのに右のリアムと話をしていると、ゆっくり時間が流れている気がする。黄金色の穂を手を伸ばし、そのくすぐったい柔らかさを感じているような穏やかな幸せを感じてしまう。
「リナ」
「はい」
「迷うな」右のリアムは強く私にそう言った。