身体中の力が抜ける。闇よりも深く暗い絶望というものを知る。一刻も早くリアムに駆け寄りたいのに、フレンドの尻尾は魔王に捕まってしまい動けない。その恐ろしい顔が私に近寄り、吐く息がかかるほどの距離となる。どんよりした土気色の肌に血走った黒い瞳。さっきまでの粒子の固まりが、リアムの赤い矢によって実体化した。

「ほぅ……お前はこの世界の者ではないな。おもしろい」
「リアムの仇!お前にこの国は滅ぼせない。滅びるのはお前の方だ!」
 力を抜いてる場合じゃない!ここまでの努力を忘れちゃダメでしょう。
 リアムの想い。アレックスの想い。皆の想いが沢山この魔法の剣に詰まってる。負けるかもしれない、ダメかもしれない、死ぬかもしれない。でも精一杯やらないと死んで後悔するのは私だ。リアムに怒られる。総務部の宮本里奈をなめんなよ!

 自分にある全ての力を込め立ち上がり、両手の中指の指輪にキスをした。見守って下さい!
 私は剣を強く握り、フレンドの背からジャンプして魔王の目に突き刺した。魔法の剣なら勝てるはずだって私は救世主!突き刺した目からドロドロと血が流れ、魔王は空が割れるほどの悲鳴を出して倒れて全て解決ハッピーエンド……って思っていたら
 私の攻撃は虫にも劣るというのか。
 魔王は鼻を鳴らして、親指と人差し指で突き刺した剣共々私を目から離して苦笑いする。

 痛くも痒くもないの?だってこれ魔法の剣だよ?私、救世主だったはずだけど……やっぱりポンコツだった?あまりにも無反応って何?毒は後から回りますってタイプ?でもなさそうだな。

 やっぱりぜんぜんダメじゃん私!!!
「おもしろいくらい弱いな」敵に笑われてしまった。
 落ち込みが半端ない。ごめんリアム。
「このまま私を殺していいよ。でもこの国と国民は助けて!異世界の女を殺しておしまいでいいじゃない」
 私が叫ぶと地上から何やら叫んでる。
 もういいよ、リアムも死んでしまったし、生きる希望もないから私が犠牲になってやる!