「私の覚悟はできている。返事は……これだ」
 アレックスが威厳のある声で空に向かってそう言うと、隣のリアムが私の身長より大きな銀の弓を引き、用意していた黄金の矢を力いっぱい空に放つ。
 宣戦布告!
 ジャックの合図で騎士団達が一生に動き出す。200人ほどの精鋭部隊はペガサスに乗りながら空を飛び、弓で魔王の顔をめがけて矢を放った。アレックスは強くなってきた風を受けても乱れもせず、大きな白樺の杖を持ち呪文を唱えながら杖の先から稲妻のような光で魔王を攻撃し、シルフィンはアレックスの集中を邪魔させるものは殺す勢いで、呪文を言いながら王をアシストし目を光らせていた。
 そんな私たちに魔王は鼻で笑い、騎士団達をうるさい蠅のようにあしらって、大量の矢を無駄に終わらせてしまう。たまにアレックスの光を浴びた時だけ攻撃が効くのか、目を閉じて嫌な顔をする。

 荒れ狂う空に一匹の龍が暴れている。
 フレンドだった。しなやかな動きをしながら魔王の隙を狙い、大きな目を血走らせながら鋭い爪で実態のない目を斬り裂こうとするけれど、魔王の顔を作る黒い粒子がスッと消えてまた別の場所に形を作る。緑色の龍は怒りながら大きな声を出して口から火を吐き出し、私は見た事のない機敏さと破壊力に驚いた。
 これがあの泣き虫で甘ったれのフレンド?
 今まで会った龍の中で一番強くて美しい。
「リナ!」リアムに手を出され、私は我に返って彼の手を強く握ってリアムの黒いペガサスに乗り込んだ。
「離れるな!」
「はい!」
 ペガサスは急上昇で空に上がると、フレンドの吐く炎を感じて身体が熱くなったと思ったら、それはフレンドの攻撃の炎ではなく、魔王が火の粉を飛ばしていた。その火の粉はピンポン玉くらいの大きさで身体に着いたらあっという間に回って燃え死ぬだろう。闇の中でイリュージョンのようにオレンジ色の玉は降り注ぎ、騎士団達も被害を受けている。リアムは火の粉を避けながら、鍛えられた体幹でペガサスの背に立ち、狙いを定めて素早く銀の弓を引き魔王の目にヒットした。魔王は邪悪な笑いを一時止め、いまいましい顔でリアムを見て口からリアムが放った矢を返す。
「危ない!」
 それはしっかり私達が乗っているペガサスを狙っていて、リアムは私をかばいながら避けたけど上手くいかず、ペガサスの羽に当たってしまい、私達の身体は空中で放り出されてしまった。肺がつぶれそうになるくらいの急降下で、息も心臓も止まるかと思ったら、ジャックがすぐ気が付いてフレンドを誘導し、私とリアムはフレンドの背に落ちる。序盤なのに死ぬかと思った。
「フレンド頑張って近寄れ。リナ、近寄った時にお前の剣でヤツの目を射せ。俺が先に出て油断させるから」
 リアムに指示を出されてフレンドはまた口から威嚇の火を出し、私は震えながらうなずく。
「リナ……お前にしかできない。替われるものなら替わりたい」
「リアム。まだ半分プロポーズが残ってるよ」
「そうだな」リアムは笑って私をもう一度抱き、唇を重ねた。
「リナに出会えてよかった。愛してる」
「照れ屋なリアムが、今日はいっぱい言ってくれるね」
「挙式の日には一日中言ってやる。行くぞ!」
「はいっ!」
 最強の龍の背に乗り、私は愛する人と魔王の顔に突っ込んだ!