乾いた風が壊れた神殿に吹く。

 私達は完成されたドームに入る人の行列を、その場所からただ見つめていた。
 アレックスが魔王から国民を守る為、強い結界を貼って造った巨大なドーム。都の人達はそこに続々と引き込まれるように入って行く。昨夜からの長い長い小さな点の繋がりは、やっともう少しで収まそうで終わりが見えてきた。山の向こう側にも似たようなドームを5つほどアレックスは作っていた。仕事の早い王様だ。

「いい天気だ」
 アレックスが黄金の髪をかき上げ、風の音を聴いている。シルフィンはその後ろに立ち、フレンドの髪を撫でていた。フレンドは何かを感じているのか、甘えた声を出してアレックスのマントをつかんで引っ張る。
「こらこら」いつもの王の笑顔を見ると心も落ち着く。
「空が高い」アレックスが空を見上げると、大きな銀の弓を持ったリアムも空を見上げる。

 秋の収穫の日。青い空はどこまでも青く高かった。
 穏やかな空から一羽の鷹が舞い降り、リアムの前に膝を付けるとジャックの姿に変化した。
「騎士団の体勢は整っております。国中探しましたが国民の姿はありません。皆それぞれのドームに集まってます」
「ご苦労。お前もドームの警備に着くがいい。危険を感じたら騎士団達とドームに入れ」
「いえ!自分はリアム様の傍におります」ジャックの決意は固い。リアムはどうにかして被害を最小にしたいのだろう。特に可愛がってるジャックを自分から離して、助けたい気持ちだけど、ジャックがそれを許さない。
 それにシルフィンもここに居る、アレックスから離れない。だから彼は私達と一緒に戦うのだろう。

 あっという間に時が過ぎ
 今日は秋の収穫祭。一年前の悪夢がよみがえるのか、リアムの顔が空から離れない。アレックスとリアムの仲が元に戻り、私は正式にリアムの恋人となった。忙しいけど毎日楽しかった。今日の日を忘れたように、楽しく過ごした。食べて飲んで騒いでフレンドと遊んで、シルフィンと2人女子会して、厳しいドS騎士団長の剣の稽古はあったけど、それ以外は砂糖菓子より甘い恋人として過ごした。魔法のじゅうたんに乗って夜の散歩も楽しかった。街の灯りと星屑の中間で溶けるようなキスをした。今日まで充実していて幸せな日々だった。

「一曲歌おうか?」
 腕の中に入る小さなハープを魔法で出して、アレックスが機嫌よくそう言うと
「やめろ」
「それだけはいけません」
「王、それはお許し下さい」残り三人の勇者がピシッと大否定した。全知全能の王はオンチなんだ。
 つまらなそうにアレックスは楽器を消すと、空が暗くなり始めた。