その夜、リンファスはケイトに呼ばれて寮母室へ行った。
ケイトは椅子に座っていて、テーブルには手紙が二通乗せられていた。そのうち一通は開封されており、ケイトの目の前に広げられていた。
ケイトは部屋に入ってきたリンファスを向かいの席に促すと、手紙について教えてくれた。

「今日、あたしとあんたに届いた手紙だ。
あたしにはあんたを今度の土曜日の夜に誘いたいから仕事を休ませてやって欲しいと言ってきている。
あんたがやってくれている仕事はもともとあたしの仕事だし、あんたが人と交流を持つのは良いことだと思ってるから、あんたが嫌じゃなきゃ行っといで」

そう言ってケイトはリンファス宛だという手紙を手渡してきた。しかし、リンファスはお金の勘定は出来るが文字は読めない。

「ケイトさん……、私、字が読めないんです。良かったら、読んで頂けませんか?」

リンファスとがそう言うと、ケイトはそう言うことなら、とリンファスの目の前で封を開けた。

「じゃあ、読むよ。
『リンファス、この前の約束を覚えているだろうか。今度の土曜日の夜六時に、角の楡の木の所で待っている。R.』
……『R』ってのは名前かね? リンファス、心当たりあるかい?」

さっきも言ったが、リンファスには文字が読めない。アルファベットも知らないのだ。

「『R』は、舌を上の歯のつけ根にくっつけた状態で、声を出す名前の頭の文字だ。
『Ra』、『Ri』、『Ry』、『Re』、『Ru』、『Ro』、とかの発音だね」

ケイトが発音してくれたおかげで、差出人は確認できた。ロレシオだ。

「手紙をくださった方に心当たりがあります。ケイトさん、出掛けても良いでしょうか?」

「いいよ、行っといで。一人で出掛けさせるのだったら考えたけど、一緒の人が居るなら安心だ。
間違っていたら謝るけど、……差出人はイヴラかい?」

驚いたリンファスはケイトに、分かるんですか? と問うた。

「此処は花乙女だけの館だ。男性は立ち入れない。
面会するにはこうやって手紙で事前に約束をする決まりがある。父親や兄弟だという人が来るね。
でも大体、館で面会して終わる。此処で用事が済むからだ。
乙女には衣食住困らないよう手配がされているし、それでも館から連れ出そうって言うんだったら、乙女に花を咲かせたいイヴラの可能性が高いって言うだけさ」

リンファスは目の前で手品を見せられたかのようにぽかんとした。そう言うものなんだ……。

「別に今回が特別なわけじゃない。
より親密になりたいイヴラは乙女と約束をして出かけているよ。あんただけを特別扱いしたわけじゃないから、堂々と行っといで」

その言葉を聞いて安心した。リンファスは、ありがとうございます、とケイトに礼を言って、渡された手紙をもって部屋を出た。