リンファスは今日も雑用に精を出していた。
午前中は乙女たちから集めた花をハラントと一緒に世界樹の元へ届ける仕事、帰ってきてからは館の共有スペースの掃除、その後に庭の手入れや荷馬車を運んでくれる馬の世話。
やることはいっぱいあった。

リンファスが廊下の掃除道具を仕舞って次の仕事をしようとしていたところ、階段から降りてきた少女と目が合った。

艶のあるウエーブした髪の毛を背中の真ん中あたりまで伸ばした美少女だ。
勿論その身に花をたくさん着けていて、はつらつとした表情が花乙女としての自信をみなぎらせている。

館に居る少女は最初にハンナがリンファスにあつらえた洋服のように、みんな白い服を着ているが、この少女はその中でもとびっきりに白い洋服に花が映える少女だった。

彼女が、リンファスがハンナに連れられてこの館に来た時に初めてリンファスに向かって声を発した、サラティアナという名の少女だ。

「リンファス、丁度良かった。カーンのお店とヘイネスのお店に行って欲しいの」

「カーンさんとヘイネスさん……、ですか?」

言われた名前の店は初めて聞く。サラティアナは手に持っていた紙をリンファスに手渡す。

「これ、カーンの店の預かり票よ。これが店の名前のスペル。
カーンの店は時計や貴金属の修理の店なの。懐中時計の絵が描かれた看板が出てるわ。
お母さまから頂いたネックレスの細工が壊れてしまって直しに出していたのよ。今度の舞踏会に間に合わせてって頼んだから、今日あたり出来ている筈なの。
ヘイネスの店では今月の舞踏会で着るドレスが出来ているわ。どちらも大事なものなの。
ヘイネスの店はカーンの店のはす向かいにあるわ。分かるかしら」

手渡された紙を受け取って、リンファスは神妙に頷いた。とても大切なものらしいから、きちんと受け取って来ないと。

「必ず受け取ってきます」

「お願いね」

サラティアナは微笑むと大輪の花が咲いたような雰囲気になる。身に着けている花も花弁が多く華やかなものが多い。だから余計にそう言う印象を受けた。

リンファスはケイトに、ハラントと一緒に街へ行ってくると断って荷馬車を準備していると、ハラントが今は手が離せないと言ってきた。

「どうしよう……、サラティアナさんには請け負ってしまったし……」

「そうだな、代わりに誰か……」

ハラントが思案していると、フェンスの角を曲がってこちらに来る人が居た。フードを被っていて、肩から流れる髪の毛が淡い金色だ。
もしかして、と思っていると、ハラントが彼を呼び止めた。