見たこともない景色が広がっていた。ウエルトの村を出てから宿泊した宿にもいちいちそれを感じていたけど、それらとは比べ物にならないくらいだった。

真っ白い外壁と遜色ないくらいに内部の作りも白で統一されており、ところどころに渡してある柱や梁、廊下の板は飴色に磨かれている。

廊下の天井は共有場所だという一階部分から高く、一番奥に当たる壁には美しい花をまとった女性が描かれたステンドグラスの窓がしつらえられている。

廊下に面した各部屋は、玄関から入って手前から応接室、談話室、図書室、そして食堂となっており、食堂の向かいには医務室が造られていた。

廊下の突き当りを左に折れてカーブする、やはり磨き抜かれた飴色の手すりを辿って階段を上っていけば、二階部分は居住スペースになっている。

此方の天井も勿論高くて、アーチ状に弧を描いて美しく造られている。外から見て小さいながらに尖塔が三つ見えるのは、この造りから来るものであるとはハンナの言葉だ。

「リンファスはこの部屋を使ってね」

ハンナに案内されて入った部屋には、飴色の窓枠に覆われた開放的な窓に白いカーテンが揺れており、白いチェストやベッドが壁際に配されている。
入口脇には鏡と洗面台があり、楕円形をしたボウル型の白いホーローが洗面台にはめ込まれていた。

隣の小さなチェストには洗顔用の水を入れておくピッチャーまであった。
井戸まで顔を洗いに行かなくても良いと言うのは宿泊してきた宿で知った行為だが、自分の部屋で洗顔が出来ると言うのは驚きだった。

大きな窓から差し込む陽光に映える美しく清潔な部屋の隅々までを見て、リンファスは不安げに口を開いた。

「こ……、こんな部屋を……、私一人で……?」

リンファスが戸惑うのも当然だった。ウエルトの家には彩光の良い部屋などと言うものはなかった。
傷みが激しく修理しながら暮らしていた為、壁や柱を補強しながら使っていた。

窓ガラスは気づいたときにはもう割れていてそれをふさぐために木の板を十字に打ち付けていた。家のすべての窓でそうだったから、家の中は太陽が出ている昼でも薄暗かった。

こんなに日差しが差し込む部屋を自分が使って良いのかと及び腰になる。それをハンナが微笑んで背に手を当ててくれた。

「陽の光を浴びることは気持ちを前向きになることに繋がるわ。花乙女には出来うる限りの良い環境で過ごすことが必要なのよ。それは住環境だけにとどまらず、着る物も、食事もそうよ」

そう言ってハンナが部屋の中に入ると、備え付けのチェストの引き出しを一つ開けた。
中にはきれいな白のワンピースが入っており、よく見ると入っている洋服はそれ一着ではなかった。

「最初に整えさせてもらったものはこのくらいだけど、今後必要に応じて洋服を増やしていくと良いわ。
そして食事も徐々に花に慣れていくと良いわね。貴女を美しく成長させるのは花だし、花乙女として、それは正しいのよ」

あまりの好待遇にリンファスは身の置き所がない。広い部屋の入り口で委縮していると、ハンナがふふっと微笑んだ。