リンファスは自室で針を握っていた。
先日カーニバルの市で買った糸を使ってハンカチに刺しゅうを施している。
デザインはロレシオからの花を青色の糸で、縁取りを黄色の糸で刺している。

針箱が乗ったテーブルの上には小さな小箱が置かれていて、その中にはロレシオからもらったネックレスが入っている。
ロレシオが贈ってくれたネックレスはきれいな紫色の石が入ったネックレスで、金具の装飾が石から蔦が伸びるように曲線を描いている。
細く華奢な鎖は指で触れるたびにしゃらしゃらと音を立て、刺繍を刺すのも忘れてぼうっとネックレスを見ていると、これを贈られたときの気持ちが蘇ってくる。

……リンファスのことを『特別』だと言った。

額のキスは、何の意味?

贈り物を喜んで欲しいと言った気持ちの理由はどこにあるの?

考えれば考えるだけ、心が痺れそうになる。
頭にかすみが掛かったみたいに何も考えられない。
そんな時間を過ごしていて、これではいけないと思いリンファスは針を手に取ったのだ。

施しではないと言っていた。

リンファスのことを『特別』だと言ったロレシオの言葉が嘘じゃないと、胸の花が告げている。
揺れる花弁に甘く陶酔しそうになるのを堪えて、リンファスは針を握り直した。折角ケイトに時間をもらったのだ。
リンファスがロレシオの言葉にやさしく包(くるま)れて幸せを……、そう、幸せを感じたように、ロレシオにも幸せを感じて欲しい。
こんなやさしい気持ちを知れたのは、間違いなくロレシオのおかげなのだ。

ものを贈ることが『特別』を意味するのなら、リンファスだってロレシオに贈り物をしたい。
リンファスの今の気持ちをありったけ籠めたこの刺繍を、ロレシオは受け取ってくれるだろうか。

蒼い花を刺す指が震える。イヴラは自分の気持ちが花乙女に届いたことを知ることが出来る。
一方で、花乙女は自分の気持ちがイヴラに届いたことを知る術はない。
自分の心を籠めた刺繍を受け取ってもらえるかどうかを考えるだけで竦んでしまいそうになる。

でも。

ロレシオはこういう気持ちを乗り超えて、ネックレスを贈ってくれたのだ。
だったらきっと、この刺繍も受け取ってもらえる筈。
そう思ってリンファスは握り直した針を丁寧に進めた。ひと針ひと針思いを込めて。


それは幸せな時間だった。