ロレシオは次の金曜日にケイトに手紙を送ってくれた。
リンファスは前回同様やはりケイトに読んでもらって、明日午後五時にこの前と同じ楡の木の下で、とロレシオが連絡してきたことが分かった。

手紙を部屋に持ち帰ったリンファスは、少し心持ちが落ち着かないで居た。
以前のようにお腹の底がそわそわする気もするし、胸がどきどきする気もする。
今の気持ちを言葉で表現できずに居て、すっきりしない。言葉でかみ砕いてすっきりできたら良いのに……、とリンファスは思った。

ウエルトの村でただただ働いていた頃は、自分のことで悩むなんてなかった。じっとしていられなくて、部屋の中を無意味にうろうろとしてしまって、だから部屋のドアがノックされたときは飛び上がるほどびっくりした。

「リンファス、良いかしら?」

プルネルだ。丁度良かった、この悩みを聞いてもらおう。そう思ってリンファスはドアを開けた。

「プルネル! 丁度良かったわ!」

「えっ、どうしたの? リンファス」

出迎えるなりそう言ったリンファスに、プルネルはしかし話を聞いてくれた。
明日、ロレシオに会う前に自分なりに気持ちを落ち着けておきたい。
このままではどんな顔をしてロレシオに会ったらいいか分からない、というようなことを、たどたどしく説明した。
プルネルはリンファスの言葉を根気強く聞いてくれて、そして微笑みながらこう答えた。

「頂いた花に感謝をして、その方にそう伝えたら良いと思うわ。
リンファスが今落ち着かない気持ちになっているのは、その方が貴女にとって特別な方になっているからなんじゃないかしら?」

「特別……?」

リンファスがおうむ返しに問うと、プルネルはそうよ、と言って続けた。

「アキムやルドヴィックには感じない気持ちを思っているのなら、少なくとも彼らより『特別』なんだと思うわ。
貴女がこの前、ジュースの味が違うと言ったのも、その方のことだったのかしら? 
リンファスがそうやって気にするのも無理ないと思うわよ。だって、貴女に次々と花を咲かせてくれた人ですもの。私だってそんな方がいらしたら、きっと気にしてしまうわ」

「そうなのね……。そういう時に、どういう気持ちで居たら普通に振舞えるかしら……。なんだか普段通りに振舞えない気がするのよ……」

こんなことを感じるのは初めてだ。
自分が話術に長けていないことは十分に知っていたし、ロレシオが知って楽しいようなことを話せる過去の持ち主であるとは思えない。
不安になって聞くとプルネルは、そのままでいいんじゃないかしら、と言った。

「その方だって、気持ちを偽ったリンファスに会いたいわけではないでしょう? リンファスは自然にして居たら良いと思うわ」

そう……、なのだろうか……。リンファスのこれからの『証』になってくれるというロレシオを、がっかりさせたくない。

「リンファス。貴女に花を贈ってくださった方に対して、貴女は自分を卑下しすぎてはいけないわ。貴女のありのままを認めてくださった方に、失礼になるから」

プルネルの言葉にハッとする。
今まで常に自分が至らないことを嘆いてきたが、そんなリンファスに花を贈ってくれたロレシオは、至らない筈のリンファスに『興味』を持ってくれて『友人』だと思ってくれたのだ。そのことを、大切にしないといけない……。
リンファスに咲いた『友愛』と『友情』の花がふるりと揺れて、リンファスを励ました。

「そ……、そうね、プルネル……。貴女の言う通りだわ……。……私、この花を贈ってくれた彼の気持ちを大切にする。そうすることで、彼を大切にすることに繋がるのね……」

「そうよ、リンファス。そうやって、心と心が結ばれて行くんだわ」

微笑んでリンファスを落ち着けてくれたプルネルに感謝する。明日が、待ち遠しくなった。