とある昼下がり。
紅葉が見頃な狛神家の庭で女性陣の親睦会が開かれていた。
「まあ! では、兄様がプロポーズしたのですね!」
「ぷ、プロポーズ……」
改めて言われると、恥ずかしくて、茉結は頬を赤く染める。
「あ、秋雫ちゃんにはそういうのはないの?」
「わ、私ですか!?」
自分だけは恥ずかしい、と秋雫に矛先を向ける。
急に話を振られた秋雫は、顔が赤面する。
「わ、私はその……」
「秋雫にも、伴侶がいるのよ〜」
「そうなんですか?」
「か、母様!」
春雫は悪びれる様子もなく、「ふふふ」と上品な笑みを浮かべる。
「お、幼馴染なんです。彼の方が二歳上ですけど」
「幼馴染かぁ。素敵だね」
秋雫は、嬉しそうにはにかんだ。
「そのひとも、かくりよに?」
「いいえ」
「え?」
──じゃあ、私と同じ人間になのかな? でも幼馴染って言ってたし。
どういうことだろう、と茉結は首を傾げる。
「地獄にいます」
「…………」
秋雫の口から出た言葉に、耳を疑った。
「ご、ごめんね。秋雫ちゃん。もう一回言ってくれないかな? 上手く聞き取れなかったみたいで……」
「地獄にいるんです!」
どうやら、聞き間違いではなかったようだ。
一切曇りのない笑顔で言われると、疑う余地もない。
「秋雫、ちゃんと説明してあげなさい。茉結ちゃんが困っているわよ」
「あっ、えっとですね。私の伴侶は鬼なんです。鬼の一族は地獄の番人なので、地獄にいるんです」
「な、なるほど」
確かに、舌を切ることで有名な閻魔大王や昔の絵巻などに出てくる地獄の絵が描かれた物には鬼が多くいた。
──ということは、角が生えて金棒持ってて、結構恐ろしめな見た目だったり……?
しかし、裕太たちは人の姿をしており、見目も大変麗しい。
ということは、きっと秋雫の婚約者もそうなのだろう。自分の解釈が間違っていなければいいが……。
「あやかしのことは、まだ茉結ちゃんには難しいわよねぇ」
「でも、お姉様もこちらに住むことになるのですから、知っておいた方がよろしいのではないですか? 例えば、狛犬一族と敵対する一族とか」
「え、敵……?」
「敵というより、昔から反りが合わない一族がいくつかあってねぇ」
「そうなんですか」
「うちみたいに歴史があって大きな一族になるとね、よくあるのよ」
比較的に温厚を好み争いを嫌うのが、狛犬を中心とした兎や狼、鳥に亀などの一族。
その反対で好戦的で争いを好むのが、狐や龍などの一族。
意外なことに、鬼の一族は温厚派らしい。
「ほとんどの一族は、争いを好まないの。力や権力を持たない一族は特にね」
「あと最近は、時代に合わないからという理由でこちら側につく者もいます」
「でも、最近特に厄介なのは“蛇一族”よねぇ……」
蛇一族は弁才天に使える一族であり、温厚を好む一族だったのだが、一年ほど前から突然好戦的な態度を取るようになったそうだ。
「蛇神家の当主が病に倒れてね。今も療養中なんだけど床から起き上がれないくらい酷いらしくて。その代理当主が酷くて結構大変なのよ」