「わたくしになど頭を下げないでくださいな。

お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「a、あ、あたし相良 亜里香と申します。」

ふつつかものですが、よろしくお願いしますと、よくわからないまま付け加えた。

「沙希は一応婚約者だった。だが、姉のようなただの幼馴染だ。

高校に入るまでに花嫁が見つからなければ、とりあえず一族の中から

婚約者を選ぶのが、虎ノ門家の伝統だからな。

お前に危害を加えるようなことは一切しないと、俺が保証する。

女同士の方が話しやすいこともあるだろう。

ちょっとしたことでも頼ればいい。」

雄輝の言葉に亜里香はうなずき、沙希の手を取った。

「沙希さん!あたしの友達になってくれませんか?」

「まあ、友達だなんてそんな!」

沙希はおこがましいから無理だと首を振る。

それでも亜里香は、沙希の手をきつく握って何回も言った。

「なってくださいよ!ね?」

とうとう、押しの強い亜里香に負けて、沙希は友達になることを承諾した。

「そこまでおっしゃるのなら、わかりましたわ。

よくよく考えたら、わたくし、家柄のせいでしょうか、女性の友人がすくないんですの。

知人なら山ほどいるのですが…

どうしても、取り巻きみたいなのが多いので。

とにかく、よろしくお願いいたしますわ。」

「わあ!ありがとうございます!」

お礼を言いながら、亜里香はキラキラと目を輝かせた。

その様子を微笑ましく見ていた優莉が、楽しそうに笑った。

「私もたまに混ぜてちょうだい。真輝と一緒に。」

「そんな!ご当主様の奥方様など!

軽々しくお話しできるお相手ではございません!」

と、だいぶテンパる沙希とは対照に、亜里香は、

「もちろんです!」

と、簡単に承諾してしまった。

「あ、亜里香様!?」

と慌てる沙希に、亜里香は、にこにこと答えた。

「あたしから誘うのでは失礼かもしれませんが、優莉さまが直々にそうおっしゃっているのですから、

遠慮する必要など、ないのだと思いますよ。」

そういう亜里香を見て、雄大は、ほっとした表情を浮かべた。

「花嫁が亜里香ちゃんでよかったよ。

婚約者も、沙希にしておいてよかったようだな。

こうやって、亜里香ちゃんと仲良くなれそうだし、

おかげで面倒事も起こらなさそうだ。」

それを聞いて、真輝と沙希がたちまち顔を曇らせた。

「面倒事といえば、お父さん、面倒事を起こしそうな女がいるんだけど。」