「砂月くんは、少し黙っていてくれ、すまない」

谷口先輩は、怒りに満ちた目を、泣きじゃくる桃に向けたまま逸らさない。

「谷口先輩、聞いてください。私……桃ちゃんに、お父さんを会わせてあげたくて、でも、その……ごめんなさい」

砂月が、泣きそうな顔をして、俯くとそのまま頭を下げた。

「え?それはどういうことだ?」

谷口先輩のギョロ目がますます大きくなり、戸惑っている。

「砂月?お前、何しようとした?」

今度は、俺の声色が変わるのが自分でも分かった。砂月が下唇を噛み締めた。

「春宮彰!」

咎めるように、俺の腕を愛子が、引っ張った。

「砂月、話して。桃ちゃんとどうして此処に来たのか教えて」

「そうだ、どうして、此処が分かったんだ?」

谷口先輩が、手のひらで指し示した墓石には『谷口家先祖代々』と記されていた。

「それは…」

砂月が桃をチラッと見ながら口籠った。

「おにい、ひっく……ごめんなさい。……も、もね、しってたの。おとうさん、ここにいるって」

泣き出した桃を見つめながら、谷口先輩の身体が僅かに震えてるのが分かった。

「桃、何言って……」

「おにいちゃん、もも、に……いわないのは、ももが、かなし……ひっく……から」

砂月が、ポケットからハンカチを取り出すと、桃の目尻に優しく当てた。

「あの、私、テントに帰ろうとした時に桃ちゃんの赤いワンピースが見えて、思わず追いかけて……その時、桃ちゃんから、お父さんの話を聞いて」

そこまで聞いて、俺は砂月の言葉を遮った。

「砂月!お前、憑かれようとしたんだな!」

思わず叱責に近い口調になった。