その際、拓斗に「ここで冷静に対応するとは、童貞とは思えないヒーローっぷりだ」と褒められた。木島にも「男を見た」と息を呑まれたうえ、他の男たちにも無言のまま称賛されたが、全然嬉しくない。


 というか体育会系というわけでもないのに、ここぞとばかりに思考に直結した行動を出そうとするなよ……


 彼女の『ぎゅっとします!』の行動が加わった日々を思い返して、理樹は複雑な心境でそう思った。

 今のところ転倒といったことにはなっていないが、いずれ彼女が転んでしまうのではないかという想像が脳裏を掠めてもいた。それに巻き込まれて、先日彼女が保健室で言っていた「私も九条君を押し倒したいです!」がうっかり叶ったりしても、大変困る。

 すると、隣を歩いきながらこちらをきょとんとした様子で見ていた拓斗が、途端にウィンクと共に親指を立てた。

「ラッキースケベなイベントでも想像したのか? ははは、男冥利に尽きるってやつだな」
「てめっ、拓斗、ざけんな!」