朝の登校時間、いつも通り途中の道で拓斗と合流した理樹は、こらえきれず頭を抱えた。

「くッ、何か方法はないのか!? このままじゃ本格的にやばい気がする」

 先週『ぎゅっとします』と言ってそれを『頑張ります』と宣言してから、沙羅が隙あれば飛びかかろうとしてくるようになっていた。

 彼女は、すこぶる運動神経が悪い。持ち前の運動能力のなさのおかげで、走ろうとしてつまずいたり、隠れていた場所から飛び出してきた際には、方角が違って空振りするということが続いているが、だんだんと気配を消すことに慣れてきている気がする。

 先週最後の金曜日、体育の授業終わりに着替えているところに突入された時は、拓斗が「わぉ」と悠長に面白がるそばで、クラスメイトの全男子生徒が女のような悲鳴を上げていた。

 あの時、恥ずかしそうに頬を褒めながらも覚悟を決めた顔をしていた沙羅も、さすがに男子の反応を見て、自分がどんなことをしでかしているのか実感したらしい。扉を全開にした状態で動かなくなってしまい、理樹はひとまずシャツを着て、彼女の襟首をつまんで廊下に出したのだ。