彼女にはお帰り頂く。そう決意を固めて、理樹は立ち上がった。

 一瞬、生徒たちが「おぉ、九条子が立ったぞッ」「沙羅ちゃん、どうする気かしら……」と好奇心と期待が混じった小さきざわめきを起こした。拓斗が、すぐそばまで来た沙羅をわくわくした目で見守る。

 瞳を潤ませた沙羅は、やはり怒っているという顔にはあまり見えなかった。理樹は、なぜか二人きりというキーワードに過剰反応しているらしい彼女の誤解を解くつもりで、先に口を開こうとした。

 しかし、沙羅が拳を握り締めて「九条君!」と泣きそうな顔で怒った声を上げる方が早かった。
 入室時の冷静でなかった様子を思い返した理樹は、高校デビューから今日までの経験上を振り返り、なんだか嫌な予感を覚えた。

 すると、こちらを可愛らしく睨み上げていた沙羅が、まるで今にも泣きそうな様子で瞳を潤ませて、更に体温を上げて火照った顔で怒ったようにこう主張してきた。

「羨ましすぎますッ。こうなったら恥ずかしいのを覚悟で、九条君をぎゅっとします!」
「なんでそうなるんだよ」

 理樹は、つい反射的にツッコミを入れていた。