すると、彼女もまた相変わらずこちらの話を聞かない様子で、深刻そうに片手を顔にあてて俯いた。

「沙羅ちゃんは、お前の弁当を作れるようになりたいんだと――……くッ、なんて羨ましいんだ!」
「………………」

 作ってもらう関係になる予定は、微塵にもない。

 そもそも、まさかそんな目的があっての入部だったとは思ってもいなかったから、もはやなんと返していいのか分からないでいた。ただ、横顔に感じる、拓斗から向けられるニヤニヤとした視線については「ウザイな」と、理樹は冷静な表情で青筋を立てた。

「愛されてるねぇ」
「ぶっ殺すぞ」

 なぜそうなるんだ、桜羽沙羅。
 というか、どこで手作り弁当なんて発想に飛んだ?


 理樹は浅く息をつきながら、片手で髪を後ろへとかき上げた。

 一度冷静になって考え直してみると、拓斗が部を結成したタイミングもあって、沙羅の調理部への入部は悪くないのかもしれない。


 こちらも、拓斗の部活動に付き合って放課後残ることになるのだ。その間、彼女が部室に突入してくることがないことを思えば、沙羅が調理部に所属してくれたのは良い傾向のような気もした。

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