そう思い返したところで、理樹はふと、自分が前世の方の彼女を思い起こしていたと気付いた。


 あの世界の貴族令嬢とは、そもそも教育の仕方や習慣も違うのだ。だから自分が知る『サラ』と違って、この世界の『沙羅』は包丁くらいは握れるのだろう。

 馬鹿なことを考えた、と、理樹は皮肉気に口角を薄ら引き上げた。

 その時、慌ただしい足音が近づいてきて、一人の生徒が既視感を覚える見事なスライディングを決めて教室の前で足を止めた。そのまま入口から顔を覗かせたのは、本日も男子の制服が似合っている青崎レイだった。

 レイは何故か、ショックでも受けたようにその瞳を若干潤ませていた。しかし、その表情は相変わらず大変なご立腹である。

「九条理樹! お前のせいで、沙羅ちゃんが調理部に入った! おかげで風紀の見回りまでの短いお喋りの時間も、ごっそり部活動に持っていかれたじゃないか!」
「濡れ衣だ。俺は関係ないだろうに」

 なんだその件かよと思って、理樹は間髪入れずそう返した。