本日、彼が体育の授業を休んだのは『振られた傷心』が原因である。恋多き男なので、勝手に憧れて数十分足らずで玉砕することもあるというのは、彼を知る同じ中学校出身生徒から聞かされていた。


 木島が、組んだ手を額に押し付けたまま、ゆっくりとこちらを見た。

 知らぬ振りで理樹はシャツをズボンに入れ、ベルトを締めた。椅子に引っかけていたネクタイを手に取り、慣れたようにシャツの襟首に回す。


「チクショー、なんだか様になってやがる……」
「気のせいだ、木島。お前のところの中学もネクタイだったんだろ」

 理樹は、手元のネクタイをしゅるしゅると動かせながら、冷静にそう言った。
 ブレザーを着込みながら拓斗が「おっさん臭いよな」と笑うと、木島が「そうじゃねぇんだよなぁ」と答えて、椅子の背にだらしなくもたれた。

「普段の九条って、上品さの欠片もねぇじゃん? なのに時々さ、言葉使いとかからそういうのが消える瞬間があるっつうか、雰囲気が知的っぽくなるというか。今の台詞も『気のせいじゃね? つかお前んとこもネクタイだろ』ってくらい砕けてるのが、いつもの九条だと思うんだ」