理樹は視界の端に入る華奢な肩の揺れ具合を、完全に無視する方向で心を無にしていた。


「…………私、九条君が好きすぎるなぁって、再確認しちゃったんです」


 沙羅は囁くような声量で言って、頬を染めた。

 その様子を目に留めた男子生徒たちが「可愛すぎるだろぉぉおおおお!」と堪え切れずに叫んだ。椅子や机をガタガタと言わせて「目が死ぬッ、やばいくらい天使!」「なぜ九条なんだチクショーッ」と悶絶する。

 そのかたわらで、女子生徒たちも「九条君もう付き合ってあげなよ!」「めっちゃ妹にしたい!」と黄色い悲鳴を上げた。とうとう杉原が、壇上にガツンと思い切り額を打ち付けて突っ伏した。

 恥ずかしがるくらいなら口にするなよ、わざとなのか? 

 騒がしくなった教室内で、沙羅の隣にいる理樹だけが真顔だった。わざと味方を増やして、外から逃げ道を断っていこうって魂胆なのだとしたら最強の策士だと思う。
 しかし、彼女がそんなことを出来る女でもないと知っていたので、好意を向けられている謎のようなこの現状に、真顔以外の表情も出てこない。