驚いて顔を向けると、強気だった表情を一変させて、今にも泣き出しそうになっている沙羅がいた。大きな瞳は今にも涙がこぼれそうで、小さな鼻と頬が薄く色付いている。
 理樹は、どうして彼女が泣きそうになっているのか分からず、「は……?」と小さく目を見開いた。

「嫉妬しちゃいます。レイちゃんに怪我がないようにしてくれて嬉しいのに、近い距離から、優しく触れられているレイちゃんが羨ましいだなんて思って……勝手に嫉妬してしまうくらい、私は、九条君のことが好きすぎるんです…………」

 待て、俺は青崎レイを『優しく触った』覚えはない。

 呆気に取られた一瞬後、理樹はそれを正すべく口を開こうとした。しかし、彼女がこちらに手をついて勢い良く身を乗り出してきたので、反射的に顔を後ろへと引いてしまったことで、そのタイミングを逃した。

 ずいっと下から顔を覗きこまれて、口角が引き攣りそうになった。頼むからこれ以上近づいてくれるな、と思っていると、彼女が覚悟を決めたようにこちらを強く見据えて、目尻からぽろりとこぼれ落ちた涙にも構わず、突然怒ったようにこう言った。