自分のことだけであったのなら、前世の記憶については、馬鹿らしいと切り捨てて放り投げていただろう。
 それでも、そうすることが出来ないのは、再び目の前に現われた彼女が、前世で自分が初めて出会った十六歳の姿だったからだろうか。

 魂が同じだけで、彼女は別人だ。そして、俺もリチャードじゃない。

 平民仲間にリッキーと呼ばれていた男は、もうどこにもいないのだ。そして、サラも――


「よっ、理樹! お昼ぴったりに目が覚めるとか、さすがだな!」


 突然「迎えに来たぜ~」と全く心配もしていない陽気な声を上げて、拓斗が仕切りの白いカーテンをめくって顔を覗かせた。購買でゲットした二人分の弁当が入った袋を掲げて見せて、こう続ける。

「感謝しろよ、お前の分のエビフライ弁当も買ってきてやったぜ」

 気のせいか、こちらの苛立ちを煽るくらい、活き活きとして楽しそうな面である。
 理樹は現実に思考を戻し、今の自分が置かれている状況を確認すべく目を向けた。白いベッドに、仕切りのように周りを覆う白いカーテン。独特の薬品の匂いが鼻をついて、つい先程、自分が男装少女に殴られたことを思い出した。