リチャードが面倒臭そうに肩越しに振り返ると、この地区のギャングであるその中年男が、ニヤリと欠けた歯を見せて笑った。

「納税分に足りねぇんだろ。お前が提示した一回り上の金額で売り付けてきてやる」

 そう言われたリチャードは、特に表情も変えなかった。少し癖のある漆黒の髪を後ろに撫で付けて、それから視線をそらすように後ろ手を振って歩き出した。

「ウチは不作なんだ。税を上げるわけにはいかんだろ、冬を越せなくなる」

 男が外に働きに出れば、女がより苦労する。それは貧乏時代によく見ていた光景だった。

 クソみたいな土壌の地も、きっと何かしら解決策や方法があるはずなのだ。対策と改善を続ければ、いずれ豊かな土地となってくれるだろう。天候条件は決して悪くないのだ、微塵にも価値にならない野花や雑草が育つくらいならば、もっと品質の強い農作物を選んで試してみれば、あるいは――

             ※※※※
 
 理樹は、意識が浮上するのを感じて、ふっと目を開けた。