九条(くじょう)理樹(りき)は五歳まで、人生なんて珍しいことも不思議なことも起こらないものだと思っていた。自分は少々子供らしくないらしいが、それがどうした、と常々可愛くないことを表情に浮かべるような子供だった。

 ところが、蓋を開けてみればなんでもないことだった。

 別の世界で生きていた前世の記憶とやらが、頭の中に残っていたせいである。

 五歳の入園式で思い出した際には、まさかこんなことが起こるものなのか、と我が身で体験して驚いたものだ。
 とはいえ、ちょっと時間を置いて考えてみれば「なるほどな」とも腑に落ちた。そもそも、両親や兄弟とちっとも似ていないなと思っていた顔は、前世のままだったからだ。

 いかにも人嫌いそうな鋭い目付きで、黙ってむっつりしていると「威嚇してるの?」と二人の兄たちに恐る恐る尋ねられた。目鼻立ちは悪くないものの、口を閉じるとふてくされたような表情になるので、印象は良くない。