理樹はコンマ二秒でそう判断すると、攻撃をかわした姿勢から一気に踏み込んで前進し、レイとの距離を詰めて、拳を振り切ったその細い腕を掴んだ。

 躊躇なく間合いをゼロにされ、一瞬で腕をとられたレイが目を見開くのを間近に捉えながら、その足を払って地面へと引っ張り込む。

 咄嗟に残った手を彼の後頭部に回し、どうにか打撲といった怪我もさせないよう威力を少し殺すべく、掴んだ腕の肘をぐっと押し込むような形で地面に叩きつけた。相手が再び暴れ出す前に素早く態勢を変えて馬乗りになり、自身の体重でしっかり押さえつける。

 こんな時、前世の記憶があると便利だなと思ってしまうのは、あの世界の貴族男子が、一定レベルの護身術を教え込まされるのが常識だったことだ。暴漢を送ってくる敵も多かったので荒事にも慣れていたし、前世では荒っぽい連中との付き合いもあって喧嘩体術も身に付いていた。

「――ったく、いきなり暴れてくれるなよな」