教師である鈴木の話を全く聞かない様子の、『青崎』と呼ばれた少年を眺めていた拓斗が「なるほど、風紀委員会の新人ねぇ」と言った。

「これは面白い展開になってきたな」
「チッ、他人事に傍観しやがって」
「事情はよく分からんが、ちっこいのに凶暴そうなやつだよな。安心しろ、骨は拾ってやるぜ!」

 任せろ親友、と拓斗がいい笑顔で親指を立てた。

 これ以上教室内で騒がれても迷惑だと思い、理樹は仕方なく渋々腰を上げた。こちらを見たその男子生徒が、途端に「お前が『九条理樹』? その辺に埋もれそうなやつじゃん」という台詞と共に露骨に顔を顰めた。

 次の授業の準備もあって時間が作れない鈴木が、教室を出る理樹と少年を物言いだけに見送った。これまで美少女からの告白を面白がって騒ぎ立てていたクラスメイトたちも、もしや荒事になるのでは、とようやく危機感を覚えた顔を見合わせる。

「頼むから、何事もなく話し合いだけで帰ってきてくれよ……」

 一学年担当教師の中で、一番気の弱い鈴木は、日々一組だけでもキリキリと痛んでいる胃の辺りを押さえて、そう呟いた。
            
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