「いや待てよ? そう考えてみると、一目惚れだと本人が勘違する可能性もあるってことか……?」
「お前、顎に手をあてて考える仕草がやけに様になるよな。つまり顔がどんぴしゃ好みで、ファンみたいなものってことか?」

 拓斗が、よく分からないなぁと呟いて首を傾げる。

「というかさ、顔がドストライクってのを、人は恋の始まりと呼ぶんじゃね?」
「他人事だからって適当だな」

 授業開始の鐘が鳴り、教師がこちらに近づいてくる足音に気付いて拓斗が前へ向いた。
 理樹は、もう三年も見てきた親友の背中を眺めながら、彼が先程口にした『ろくでもない人間なんかじゃねぇよ』を思い返して、思わず口の中に呟きを落としてしまった。

 
「――……でも、悪党みたいなってのは、本当なんだよ」


 今のこの状況が不思議でならないくらい。

 だって俺は、悪党みてぇなろくでもない成り上がり貴族の男だったんだと、理樹は心の中に独白をこぼした。