高校に入学して、一週間が過ぎた。
 理樹は、予想以上の桜羽沙羅の行動力の強さと、持ち前の天然ぶりが斜め方向に強化されたような思考回路に精神が疲労困憊していた。

 高校生活二日目は、開けられた教室の扉から、「おはようございます九条君!」と挨拶する程度だった。ひどい注目を集めたうえ、付き合う事にしたのかと騒がれたが「んなわけあるか」と一刀両断して誤解は解けたので問題はない。

 校内を歩いていた際、顔を見掛けるとその場から「九条君、こんにちは!」というのも、まだマシだ。あの程度なら無視出来る。

 
 けれど二日も経たずに、彼女が教室に足を踏み入れるようになったのは理樹の頭を悩ませた。食べ物は何が好きなのか、はまっている本はあるのか、得意教科は何か……としつこく尋ねてくるのだ。
 こちらは無視しているというのに、彼女は満面の笑顔のまま話しかけてくる。チラリと睨みつけてやると、何を勘違いしたのかにっこり笑い返してきたりする。