そういえば結婚当初の頃、手間をかけさせるなと、花畑に座りこんでいた彼女を肩に担いで屋敷に戻ることも少なくなかった。好きに伸び放題にさせていた雑草みたいな花畑を、なぜかとても好いていたのだ。
 そして、都会の町並みがあまり好きではなく、人の多く集まる劇場やパーティー会場も苦手としているのを知った。


――気分が悪いのなら、我慢せず言えばいいものを。
――うぅ……迷惑をかけてごめんなさい。本当はこういう華やかなパーティーが苦手で、食欲もなくなるくらいなの…………って、うっきゃあ!?
――なるほどな。君が十六歳にしては、随分小さくて細い理由が分かった。
――お、おおおお降ろしてリチャード様ッ
――降ろさない。こうやって運んだ方が早い。


 屋敷の裏は、手入れもされていない野花の原となっていた。一番目の子供を身ごもった時も、彼女はつわりがひどい身体でそこまで行って、よくのんびりと座っていたものだ。

 春には黄色、夏には白と桃色。
 秋には、この世界にはない青い小さな花が、屋敷の裏一面に咲いた。

 魔法といった不思議で特別な何かがある訳でもない世界だったけれど、日中の光を集めて、夜になるとぼんやりと光る花はあった。夜中に悪夢で起きた彼女が、それを見たいと言った時に抱き上げて連れていき、二人でそこに座って眺めもした。


 理樹は、そう思い出した前世の記憶を拭い去るように目頭を揉み解した。