そろそろ彼女にはお戻り頂こう。

 そう考えて口を開きかけた時、拓斗に自己紹介を終えた沙羅がくるりとこちらを振り返り、ガバリと頭を下げて九十度の位置で止めた。

「九条君ッ、私とお付き合いして下さい!」
「おい待て。なんでそこで告白リターンした?」
「私をあなたの彼女にしてください! あと下の名前で呼びたいです!」

 朝を彷彿とさせる見事なお辞儀と共に、沙羅が交際を申し込むべくこちらへ右手を差し伸ばしていた。
 小さくて細いという外見からくる第一印象の、小動物のような癒し系タイプの美少女っぷりを見事に裏切るように、彼女は面倒な方向に押しが強い気がする。

「お前、俺の話しを聞いてたか? 朝も答えたが、両方却下だッ」

 というか、下の名前で呼ばせてたまるか。周りに勘違いされるわ!

 理樹は彼女に歩み寄ると、そのまま片腕で腹をすくい上げるようにして抱え持った。躊躇もないその流れるような動きに、拓斗が「は?」と間の抜けた声を上げ、沙羅が「へ?」と言って目を丸くする。