「私、中学までは私立だったんです」


 そう沙羅が切り出す声が聞こえて、理樹と拓斗はそちらへと意識を戻した。

 視線を向けると、彼女は少し恥ずかしそうに俯いて、スカートの前の手をもじもじとさせた。しかし、勇気を奮い立たせたとでもいうように顔を上げると、キラキラと輝かせた大きな瞳で、理樹を真っ直ぐ見つめてきた。

「一般の高校に通ってみたくて、家から近いこの高校を受験しました。そうしたら、あなたに一目惚れてしまったんです!」
「………………」

 しばし返す言葉が見付からずにいた理樹は、ふと冷静になってその台詞を頭の中で反芻したところで、朝の告白に関しても先に気付くべき疑問点があったことに気付かされた。

「おい。一つ確認するが、一目惚れだというと――俺、お前と会ったことはないよな?」
「はい、ありません!」

 切り出した言葉の勢いで元気が出たのか、沙羅が笑顔でそう言い切った。

 つまり彼女は、幼稚園の頃の出会いを覚えていないらしい。