「…………九条、それ、恋が成就した男の顔じゃねぇよ。もうちょっと優しい目を向けて欲しい」
「ダメだって木島。理樹は交際スタートしても、通常モードなんだよ」

 朝からポッキーをつまんでいる拓斗が、呑気な顔でそう教えた。

「登校したら、すっかり学校中がお祝いモードでさ。『なんで手を繋いでないんだ』『恋人らしい登校を期待してたのに、どうして四人で一緒の登校なんだよ』『下の名前で呼んでみてッ』って来た二年生から三年生の先輩たちを、校舎入ってすぐのところで一通りぶっ飛ばして、すぐに距離感を変えるつもりはない、って宣言してた」
「マジかよ。なんて乱暴なんだ――つか、え? 九条って喧嘩強いの?」

 木島が呆気に取られて呟き、こちらを見た。
 理樹はしれっとした顔を窓へと向けて、その視線をかわした。

 拓斗が「まぁポッキーでも食べて元気だせ、木島」と言って、そのうちの一本を、ポカンと開けたままだった木島の口に押し込んだ。