ベッドから降りると、現在の状況に頭の整理が追い付かないでいるらしい彼女の前で姿勢を正し、恭しく胸に手を添えて、右手を差し出しながら腰を屈めた。


「――それでもいいのなら、どうか、俺とお付き合いして下さい。桜羽沙羅さん」


 やはり告白するのなら、男の方からだろう。

 理樹はやり返してやったとばかりに、ふっと不敵に微笑んで見せた。こちらを見上げる沙羅の顔は、沸騰しているのではないかと思うほど真っ赤で、羞恥に震えている唇は、声も出せずに小さな開閉を繰り返していた。

 理樹は催促する態度は一切とらず、彼女の顔を覗きこんだまま、ただじっと待った。
 しばらく経った頃、ようやく沙羅が身じろぎして動きだした。


「…………どうか、よろしくお願いします」


 今にも倒れそうなほど顔を火照らせた彼女が、どこか夢心地にそう言って、こちらの掌に手を添えてきた。

 前世で初めて結婚を申し込んだ時と同じように、理樹はその手の指をそっと握りこんで、引き寄せた指先に、ほんの少しだけ触れる程度の口付けを贈った。

        ※※※

 その翌日の朝のことだ。

「おめでとう! お前ら、ようやく付き合うことにしたんだってな!」

 そう叫んで教室に滑りこんできた木島に、理樹は「あ?」とゆっくり顰め面を向けやった。

 予想と違った反応を見た木島が、「えぇぇぇ……」と複雑な心境を表情に浮かべた。先に既に登校していたクラスメイトたちが、小さく苦笑を浮かべる。