――どうして……出会って………ったんだろう。


 最期の日、ベッドから出た手を握り締めていると、こちらを見つめた彼女がどうにかといった様子でそう呟いた。その瞳から涙がこぼれ落ちて、目尻にたまった涙をキスで拭ってやると、ハラハラと泣きだしてしまったのだ。

 とても愛情深い女だった。気持ちを完全に切り替えて、一人目の婚約者を忘れるという器用なことは出来そうにもなく、それを考えたところで、ああそういうことなのかもしれない、とリチャードは思ったのだ。

 一番目の婚約者とは、彼女は物心ついた頃から十六歳になるまでの付き合いがあった。世間を知らない令嬢が、初めて知りあえた男に憧れて、恋に落ちるというのは珍しくないことだ。
 きっと一番目の婚約者であった、あの男のことが胸に残っているのだろう。だから、それに対して罪悪感と未練を覚えているのかもしれない、と彼女の涙の理由をそう想像した。

 初恋が、俺であったなら良かったのに。そう思った。