しばらくして涙が落ち着いたあと、理樹は拓斗に前世の記憶があることを打ち明けた。
 だから彼女が自分を『好き』だというのは、違っているのではないかと思う……その憶測について口にした時は、何やら言いたそうな顔はしていたが、それでも拓斗は静かに黙って話しを聞き続けていた。

「そんなことも、あるんだなぁ」

 全ての話を聞き終わった拓斗が、一度頭の中で整理するような間を置いてから、ゆっくりとそう言葉を切り出した。

「お前が泣いたのもびっくりしたけど、まぁ、おかげで嘘じゃないんだなってのも分かったっていうか……――つか、鞄にハンカチが入ってることにも驚いたわ」
「必需品だろう」

 理樹はそこに関してはすかさず言い返して、彼が水で濡らしてきてくれたそれを目元から離した。腫れているような感じはないので、恐らくは大丈夫だろうと判断してテーブルに置く。

 拓斗は「ちょっと違うと思うんだけどな」と、勉強机四つ分で組み立てられているテーブルの上へ目を向けた。お前がお坊ちゃま育ちなのを、ここで実感することになろうとは……とハンカチを見つめて複雑な心境を呟く。