拓斗は悩ましげに視線をそらし「よく分かんねぇけど、俺としてはさ」と鞄を机の上に置いて言葉を続けた。

「本気で好きだと言ってくれてる子には、中途半端な態度を続けるよりも、ハッキリさせてやった方がいいと思うんだ。相手は真剣なんだからさ、お前も、一度くらい真面目に考えた方が――」

 真面目に考えろ。

 そう告げる言葉が聞こえた瞬間、理樹の中でこれまでずっと我慢していた何かが決壊した。この十一年間、悩まされなかったことはなかった感情が爆発し、気付けば彼は怒りを露わに拓斗を怒鳴りつけていた。


「『真面目に考えろ』だって!? 俺だって真剣に考えてる!」


 いつだって真面目に、ずっと真剣に向き合っている。だからこそ、これ以上の態度と言葉でハッキリさせてやることも出来ないでいるのだ。

 初めて目の前にする怒り狂う様子に気圧された拓斗が、一歩後退した。理樹だって、これは八つ当たりだと分かっていた。
 それでも、何よりも真剣に考えているからこそ、それを否定されるという逆鱗に自分を抑えることが出来なくて、理樹は荒れ狂う心に心臓が切り裂かれるこの痛みを吐き出すように、拓斗の胸倉を乱暴に掴んだ。

「お前に何が分かる!? 愛していたんだッ、俺は夫婦となった彼女を、いつしか妻と彼女を心から愛していたんだよ!」