拓斗が戸惑った様子で走り去っていく沙羅を見て、立ち尽くしている親友へと視線を戻した。理樹は背中の向こうで、ただ遠ざかっていく遅い足音を聞いていた。
 
 告白をもっと強く断れる方法がある。
 ハッキリと拒絶してしまえばいい。

 理樹は、長く生きた前世の経験からそれを知っていた。
 リチャードは悪党みたいな貴族で、結婚する前の十代前半の頃から女の扱い方には長けていたし、その知識も経験も豊富だった。

『お前には興味がないんだ』
『俺は、お前が好きじゃない』

 けれど『嫌いだ』といったことさえ、理樹は沙羅に対して口にしたことはなかった。
 そんなこと、出来る筈がないからだ。

 西園寺は多分、こちらが迷って動けないでいることに気付いたのだろう。それを察したうえで、運動場で二回目に顔を合わせた時に、あんなことを言ったのかもしれない。相談があるのなら乗るよ、と。

 言えるわけがない。今の俺は冷静ではないのだ。
 そうでなければ、誰が眠れない夜を過ごすというのだ。