話が見えず、訝って顔を顰めたら、沈黙の返答を聞いた彼女が顔を上げた。
 その表情は今にも泣き出しそうになっていて、理樹は軽々しく質問の言葉をかけることが出来なくなった。

「こんな風に優しくされたら、余計に意識してしまいます。ドキドキして、いろんな想いがぐるぐるして、うまく話すことも出来ないのがつらくて。……なのにこうして顔を合わせたら、また私だけが勝手にドキドキしてる」

 どうしていいのか分からない、混乱しているのだというように、沙羅は揺れる瞳で言葉を続けた。

「向けられる眼差しが柔らかいだなんて感じて、思い返したら余計に意識しちゃってダメなんです。普通にお話し出来なくなったら、もっと胸が苦しくなって、この一週間あなたのことばかり考えて」

 理樹は固く唇を閉ざしたまま、正面の沙羅を見下ろしていた。何も言えなかった。
 本来であれば告白を続けさせるのではなく、運動場で風紀委員長の西園寺が口にしていたように、理樹は即刻止められる言葉を選んで告白を断っていただろう。

 その相手が、彼女でなければ。


「……どうして、私を好きになってくれないんですか?」


 いつもの元気の良さを潜め、沙羅がひっそりとそう呟いて、じわりと涙腺を緩ませた。
 涙がこぼれ落ちる直前、彼女は堪えるようにきゅっと唇に力を入れたかと思うと、こちらの横を通過してのろのろと走って行ってしまった。