こちらへと少し進んできた沙羅が、顔を上げて目が合った途端、ハッとした様子でまたしても慌てて踵を返した。しかし、そのまま階段へと引き返した彼女が、急ぎ方向転換しようとして失敗し、足をもつれさせるのが見えた。

 沙羅の身体がぐらりと揺れて、そのまま階段側へと傾いた。
 拓斗がギョッとしたように「沙羅ちゃん!」と警戒した声を上げた時、理樹は持っていた鞄を放り出して既に走り出していた。

 全力で廊下を駆けた。舌打ちする時間さえなかった。

 階段階下に投げ出される沙羅の身体に向かって、間に合え、と理樹は飛び込む勢いで手を伸ばした。彼女の腹に腕を回してしっかりキャッチし、自身の身体を支えるため残る片方の手で階段の手摺りを掴んだ。

 直後、支える腕に落下する彼女の重みがガクンとかかり、それに引っ張られる自分の体重まで加わって、落ちないよう手摺りを掴んでいる腕の筋肉がギシリと軋んだ。二人分の人間の体重を支えながら、その痛みに顔を歪め歯を食いしばって耐えた。