けれど実際は、何かを妨害出来るような女じゃなかった。壁際にひっそりと立ち尽くしていて、だから彼は、婚約破棄されるかもしれないぞという噂が立つまで、その存在すら知らなくて――


「お前、すっかり有名人だなぁ。昼休みに学食とかいったら、アイドル並みに注目されるんじゃないか?」


 拓斗の声が聞こえて、理樹は我に返った。

 組んだ手を口許にあて、今生きている時代に必要のないことを思い出したものだ、と無表情の下でそう思った。

「で、どうすんだよ、理樹? 高校生活一日目で非モテ組脱却して彼女ゲット、って感じで付き合うのか?」
「ぶっ飛ばすぞ」

 奴が、この一件をニヤニヤと面白がっているのは分かっている。

 理樹は第三者として傍観している親友を睨み付けると、「んなわけねぇだろ」と忌々しげに言葉を続けた。

「これまでのモテ期はゼロ。そんな中、タイミング良く高校デビュー初日に知らない女にいきなり告白されて、お前はオーケーするのか?」