「う~ん、俺としてはなんにも進展がない、とも思えないんだけどなぁ……」
「何ぶつぶつ言ってんだ」
「お前の鋼のような顔面筋が突破出来ないところが、俺は実に悩ましいんだ」
「意味分からん」

 理樹は帰り支度を済ませた拓斗と共に、荷物を詰めた鞄を持って教室を出た。向かう先は、既に通い慣れてしまった『読書兼相談部』の部室である。

 校舎の部室側へと足を進めて、一学年の教室から一番近い階段を上がって図書室の前を通過した。文系の部室棟が授業教室と反対側に位置しているというのは少々面倒だが、おかげで人の出入りも少なく静かだという利点はある。

「職員室側からであれば、階段のぼればすぐなんだけどな」

 思わず小さく息を吐いて呟けば、隣でそれを聞いていた拓斗が「確かに」と相槌を打った。

「帰るときは向こうの階段降りれば、校舎裏口扉から外に出られるもんなぁ」
「かといって、一階からその階段に向かおうとすると、若干遠い」
「おっさん臭い意見だが、まさにその通りだぜ」