思わず口の中で呟いたら、どうしてか、すぐそばで立ち止まっていた一人の男子生徒が、チラリとこちらを見てきた。お前、本当に理由が分からないとかいうわけじゃないよな?と、その表情は語っている。

 分かるわけがないだろう。俺が何をしたって言うんだ?

 理樹は顔を顰め、膝に手をあてて「というか、恥ずかしいってなんだ」と独り言を口にしながら立ち上がった。散々好きだどうだのアタックし続けているというのに、こちらがちょっと手を伸ばすくらいであんなに赤面するとは思わなかった。

 先程の彼女の様子を再び思い返したところで、理樹はとうとう堪えきれなくなって「ああ、クソ」と思わず顔を押さえた。

 なぜならあの赤面した顔は、新婚だった頃に特によく見ていたものだったからだ。当時のことが鮮明に蘇って、こっちまで少し恥ずかしさを覚えた。


「…………ったく、初めてキスをした時とかと同レベルの過剰反応をするなよ」


 そのほとんど吐息交じりの呟きは、理樹の口の中に消えていった。