とはいえ、そうだった場合は、彼女の一連の行動の辻褄は合わなくなるだろう。
 なにせ、前世の記憶があるのだとしたら、わざわざこのように接触してこないだろうと理樹は踏んでいるからだ。

 理樹は彼女が、どんな女性であるのかよく知っていた。自分が前世を思い出すより以前からあの時代の性格のままである、とも気付いていたから、こうして生まれ変わった彼女も、執着したり計画立てて何かを行うことは出来ないだろうとも理解していた。


 あれは悪い女だと――悪役令嬢だなんて言ったのは、誰だったか。


 五歳の頃に思い出したまま、出来るだけ手を付けないようにしていた前世の記憶が過ぎり、理樹は机から頭を起こして組んだ手に顎を乗せた。

 正規の婚約者ではなく、別の女性を妻にした男に非があるという話は一切されていなかった。邪魔者の婚約者が、とうとう観念したように身を引いたとだけ噂された。